台湾靴下工場の閉鎖と、受け継いだものづくりの思想

2021年の3月、懇意にさせて頂いていた台湾靴下工場が閉鎖しました。

その工場の社長は、1980年に靴下の編機を一台購入し、自ら製造を始めた職人です。

15年前に社長と出会って以来、靴下のことだけではなく、ものづくりの姿勢や、生き方についても多くのことを教わってきました。

残念ながら工場はなくなってしまいましたが、教わった思想は今も自分の中に根付いています。

モチベーションを上げたいなら品質を上げろ

お客様に商品を納品をして喜んでもらうほど、自信も高まり、どんどん案件を増やしたくなります。

もし納品するたびにクレームが発生したらどうでしょうか。仕事がいやになるのではないでしょうか。

だからこそ、ひとつひとつの案件を丁寧にこなすのが、社長のスタイルです。

ものづくりの仕事は、モノの良し悪しが全てです。

いくら価格が安く、お客様に至れり尽せりのサービスをしたとしても、肝心のモノが悪ければ全てが台無しになります。

モノを起点として信頼関係が成り立っているので、品質が悪ければ全てを失ってしまうのが、ものづくりの仕事です。

品質は自分の目で確かめろ

私は前職のぬいぐるみメーカーを退職後、中国工場の営業代行をしていた時期があります。

サンプルは工場から直接お客様へ。量産品も直接お客様の倉庫へ納品する流れでした。

トラブルが起きると、現場で状況を確認し解決にあたりました。

トラブルが起きてはじめて、自分の目で確認を行う構造で仕事をしていたので、根本的な解決ができませんでした。

心理的なプレッシャーもありました。中国工場の営業代行をしていたのは私一人でした。万が一トラブルが発生して、中国工場が取り合わなかった場合、その責任は私自身に降りかかってきます。

中国工場とは太い信頼関係を持ち10数年たった今でもつきあいがあるくらいですので、上記は私の杞憂に過ぎないのですが、当時は不安でなりませんでした。

責任の重さに反比例して、コストは中国の価格でした。営業成績が上がるたびに気持ちが落ち込んでいきました。

そんな状況を台湾工場の社長に話をしたところ。「品質は自分で確かめろ。確かめられないような仕事はするべきじゃない」

とアドバイスをいただきました。自分の目で品質を確認して、自分の手でリスクをヘッジすることは、お客様を守ること、自分を守ることに繋がります。

責任をもって品質を守る。責任に見合うだけの利益をとる。

その方向へ舵を切るために、ブリングハピネスを立ち上げることにしました。

靴下は美術品ではなく履くものだ

デザインに厳しいお客様の案件を無事に納品したとき、社長がぼろっと言いました。

「靴下は美術品じゃない履くものだ」

社長は覚えていないと思いますが、この言葉はいまでも、私の心に刻み込まれています。

靴下は、色数が多いほど、柄が細かいほど、はき心地に影響がでます。

デザインで付加価値をつける仕事をしていると、デザインばかりに目が行ってしまい、肝心の靴下が履くものであるということを忘れてしまうことがあります。

工場が閉鎖する前の3年間

コロナで一気に世界経済が冷え込んだあおりを受けて、2021年、残念ながら工場は閉鎖してしまいました。

ちょうど、それまで蒔いてきた種が芽を出し始めた頃でした。

弊社というより、工場で生産したブランド様の販売が明らかに伸びていました。それも1社だけではありません。

工場があと一年もってくれていればと思うと悔しくてならないのですが、社長の考え方が間違っていなかったことは、数字が証明していました。

受け継ぐということ

工場が閉鎖した後、こちらで30年間仕事をしてきたスタッフが弊社に入社することになりました。

旧台湾靴下工場の職人社長が、仕事の合間にぽろっとこぼした数々の名言は、私の宝物です。

スタッフと力を合わせて、旧工場社長の考え方を引き継いでいきたいと考えております。

編集後記

3/2(月)

午前中見積のミスが判明する。お客様の確認が細やかだったのに助けられて大事に至らなかった。「自分もこんなレベルの仕事をしているんなら、もう靴下メーカーなんかやめて再就職先を探すしかないかな」「これからは中国への指示書と同じように万人に通じる指示書をつくるね」台湾人スタッフに感情を吐露してしまう。自分としては、間違えるはずもないような資料を渡したつもりだった。だけどスタッフはそれを自信満々に別の仕様で工場へ見積依頼をした。見積を受け取った自分は、間違えるわけはないと自信満々にお客様へお出しした。結果ミスが発生した。冷静に考えると、私もスタッフもお互いにバイアスがかかっていたのが原因だと思う。ちなみに私とスタッフは同じ世代だ。一緒に仕事をするようになって16年目になった。